山一ハガネと小塚崇彦さんが共同開発したフィギュアスケート用ブレード「KOZUKA BLADES」

フィギュアスケート選手をものづくりの技術でサポート 山一ハガネ

2019年04月11日 3Dものづくり

日本選手の活躍著しいフィギュアスケート。多くの名選手を輩出した名古屋にある金属加工メーカーの株式会社山一ハガネは、地元出身でバンクーバー五輪日本代表の小塚崇彦さんとともにスケート靴に取り付ける新しいブレード(刃)の開発に取り組んでいます。ブレードの上に輝くロゴは当社のメタルプリンターでマーキングされているとのこと。ブレード開発の裏側を取材しました。

優れた技術を誇るメーカーとトップスケーターの出会い

2010年バンクーバー五輪代表、2011年世界選手権銀メダリストの小塚崇彦さんは、美しいスケーティングでファンを魅了し、日本のフィギュアスケートブームを牽引したトップスケーターの一人。2016年に競技を引退し、現在はフィギュアスケートをはじめとしたスポーツの普及活動を行っています。

一方、株式会社山一ハガネは高い強度などの特殊な性質を持つ「特殊鋼」と呼ばれるハガネを扱い、自社工場で自動車や半導体部品などの機械加工を行っています。

山一ハガネと小塚さんが共同で開発したのは、これまでパーツを溶接して作られていたブレードを、金属の塊を機械で削り出すことで一体型にした全く新しいブレード。約6年の開発期間を経て、昨年4月に「KOZUKA BLADES」として一般販売を開始しました。このブレードがどのように生まれたのか、開発を担当した株式会社山一ハガネの石川貴規さんと六車英高さんにお話を伺いました。

名古屋市緑区にある株式会社山一ハガネの本社

名古屋市緑区にある株式会社山一ハガネの本社

株式会社山一ハガネの石川貴規さん(左)と六車英高さん(右)

株式会社山一ハガネの石川貴規さん(左)と六車英高さん(右)

山一ハガネはどのような会社ですか?
当社は長年、特殊鋼の販売を行っています。近年ではクライアントのニーズに合わせて自社工場で材料を加工し付加価値をつけて提供しており、主に自動車などの部品の製造で使われる金型を加工しています。(石川さん)

小塚さんとブレードの共同開発に取り組むことになった経緯を教えてください。
小塚さんが現役選手だった2012年に、当社が足型の測定に協力したことがきっかけです。当時スケート靴の新調のため海外のメーカーまで測定に行く必要に迫られていたそうで、地元の当社で高精度な三次元測定ができると知り相談がありました。当社にお越しいただいて足型を測定し、3Dデータを元にアルミ素材を削り出して本物と全く同じ形状の足型を作りお渡ししたところ、とても喜ばれ、技術に驚かれたそうです。

当社社長が小塚さんと話をする中で、スケート靴、特にブレードに関して耐久性や品質のばらつき、ジャンプの衝撃で曲がるなどの悩みを抱えていることを知りました。金属の専門家として、自社の技術でより質の高いブレードを作ることができるのではないかと思い、一度当社で作らせてもらえないかと提案したことから開発がスタートしました。機械加工を行う部門の私たちが担当として、私が技術面、六車が企画面でサポートすることになりました。(石川さん)

フィギュアスケート用のブレードについて教えてください。
フィギュアスケートの靴とブレードではメーカーが異なり、選手は靴にブレードを取り付けて使用します。競技ではブレードのパターン(形状)や長さに規定はありませんが、競技レベルやシングル、アイスダンスなどの種目によりカーブなどが微妙に異なるブレードのパターンがいくつかあります。私たちはシングル競技用のポピュラーなパターンを採用しています。(石川さん)

KOZUKA BLADESの特長は何ですか。
従来のブレードは靴底に取り付けるベースのパーツとブレードのパーツを人の手で溶接して作るため、どうしても個体による誤差やばらつきが出てしまいました。KOZUKA BLADESは3Dデータを元に機械でハガネの塊を削り出して作る一体型のブレードのため、常に高品質で、高い強度と軽さを両立していることが特長です。(石川さん)

10kg以上ある金属の塊(左)を機械で切削し(中央)、完成品(右)は元の約2%のわずか270gに

10kg以上ある金属の塊(左)を機械で切削し(中央)、完成品(右)は元の約2%のわずか270gに

ブレードの完成品(下)とハガネの塊をイメージしたパッケージ(上)

ブレードの完成品(下)とハガネの塊をイメージしたパッケージ(上)

選手の身体にやさしい理想のブレードができるまで

ブレードの開発はどのように進めましたか?
当社は加工技術には自信がありましたが、スポーツ用具の開発は初めてで、フィギュアスケートに精通していなかったため、きちんと滑るブレードが作れるかどうかは大きな挑戦でした。(石川さん)

何度も試作品を作っては、小塚さんをはじめ多くの現役選手に実際に試合などで使用してフィードバックやアドバイスをいただきました。私や石川もスケートリンクに通って試作品をテストするなど、試行錯誤しながら開発を進めました。(六車さん)

六車さんがブレードの試作品を付けてテストに使っていたスケート靴

六車さんがブレードの試作品を付けてテストに使っていたスケート靴。使い込まれた靴に開発の苦労がうかがえます

開発にあたり、こだわったことは何ですか?
選手の身体にやさしいブレード作りにこだわりました。ジャンプなどの衝撃に耐えられるよう、材料には曲げや衝撃に強くしなやかで強度の高い特殊鋼を採用しています。また、選手からスピンなどの時にブレードを持つと手が切れてしまうことがあると聞き、手が触れる部分の角を丸く処理するなど細部にも気を配りました。(石川さん)

ブレードが完成するまでのプロセスを教えてください。
金属の塊を加工機で切削した後、御社のメタルプリンターでロゴをマーキングします。最後にブレードの耐食性を高め、外観を美しくするため、めっき加工を施して完成します。(石川さん)

ブレードは金属の精密加工に適した室温が保たれた山一ハガネの自社工場で作られます

ブレードは金属の精密加工に適した室温が保たれた山一ハガネの自社工場で作られます

20本もの工具を自動で交換する高精度の加工機を使いブレードを切削

20本もの工具を自動で交換する高精度の加工機を使いブレードを切削

山一ハガネはブレードにロゴを入れるため、金属の表面に文字やイラストをマーキングできる当社のメタルプリンター「METAZA MPX-90」を2016年に導入しました。

山一ハガネのCADルームに設置された当社のメタルプリンター

山一ハガネのCADルームに設置された当社のメタルプリンター

メタルプリンターを導入された経緯を教えてください。
開発当初は生産数も限られていたため、ロゴのマーキングは外注していました。量産を視野に入れ、外注の手間をかけずマーキングを内製したいと思っていた時に見つけたのが御社のメタルプリンターです。デモを見てこれなら内製できると感じました。氷上で使用するブレードは錆びやすく、錆の原因になるため表面にはなるべく傷を付けたくない。メタルプリンターは印字面が錆びにくい方式を採用していることも導入の決め手になりました。(石川さん)

メタルプリンターでブレードの表面をへこませてロゴをマーキング

メタルプリンターでブレードの表面をへこませてロゴをマーキング

社内でマーキング作業を担当する鮫島綾乃さん

社内でマーキング作業を担当する鮫島綾乃さん。「特別な知識がなくても使いこなすことができ助かっています」と話してくれました

どのようにメタルプリンターをお使いいただいていますか。
ブレードの外側にKOZUKA BLADESのロゴと当社のロゴ、靴に接するベースの部分にシリアルナンバーをマーキングしています。希望者にはブレードの内側に名入れもします。選手からは名前が入ると特別感があると好評です。(石川さん)

ブレードに並んだKOZUKA BLADESのロゴ(右)と山一ハガネのロゴ(左)

ブレードに並んだKOZUKA BLADESのロゴ(右)と山一ハガネのロゴ(左)

ブレードのベースの部分にシリアルナンバーをマーキング

ブレードのベースの部分にシリアルナンバーをマーキング

ブレード開発のこれから

ブレードに対する反響はいかがですか?
多くのメディアで紹介いただき注目が高まっていると感じます。おかげさまで選手からの問い合わせも増えていて、昨年末の全日本選手権にはKOZUKA BLADESを使用した6名の選手が出場しました。一部、海外の選手にもお使いいただいていると聞いています。(石川さん)

ブレードを使用した選手から「スケートが一蹴りでよく滑るようになった」との声を多くいただいています。強度が高まったことや丈夫な材料が要因ではないかと調査を進めています。現在のユーザーは競技会に出場するトップレベルの選手が中心ですが、これから技術を磨きたい方にもこのブレードを使っていただくことで、より良いパフォーマンスを引き出す手助けになればと思います。(六車さん)

ブレードの開発に携わって感じたことがあれば教えてください。
当社が作ったブレードを選手が使用する様子が、テレビで放送される試合などを通じてダイレクトに伝わってきて社員一同うれしく思っています。通常は一般のユーザーに製品を販売していないので、どのように使われているか実感しづらいですからね。ものづくりに関わる者として、ユーザーである選手から製品に対する感想やフィードバックを直接いただけることにやりがいを感じます。(石川さん)

最後に、今後の目標について教えてください。
当社の技術を結集したこのブレードをより多くの方にお使いいただけるよう、フィギュアスケート業界に広く普及させることに努めていきたいと思っています。(石川さん)

陸上などのメジャースポーツに比べ、フィギュアスケートは道具の進化が遅れていると言われています。こうした業界の現状に一石を投じるような製品ができたと思っています。 現在、選手から要望のある別のパターンのブレードやカラーコーティングを施したカラーブレードなども製品化に向けて試作を進めています。今後も選手の声に耳を傾けながら開発に取り組んでいきたいと思います。(六車さん)

フィギュアスケート選手をものづくりの技術でサポートしたいという想いが伝わってくるインタビューでした。これからは、華麗に演技する選手の足元にも注目したいと思います!

KOZUKA BLADESの詳細はこちら

株式会社山一ハガネの詳細はこちら

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