ひかりの実(撮影:村上美都)

UVプリンターで子どもたちの笑顔をつなぐイルミネーションを作る

2020年10月27日 イベント・展示会, デジタルプリンティング

子どもたちの描いた笑顔を木に実らせるライト・アート「ひかりの実」がこの秋、横浜港の公園・象の鼻パークを彩りました。毎年参加者と一緒に作ってきましたが、これまでと同じように集まれない今年はオンラインを併用した新たな形態で開催。ローランド ディー.ジー.のUVプリンターを活用いただきました。

東日本大震災を契機に生まれた「ひかりの実」

ひかりの実(撮影:村上美都)

ひかりの実(撮影:村上美都)

ひかりの実は、2011年の東日本大震災をきっかけに美術家の髙橋匡太さんが考案した参加型のアートプロジェクトです。果物を育てるときに使われる「果実袋」に参加者が笑顔を描き、LED電球を詰めることで、色とりどりの笑顔が夜景を彩ります。これまでに横浜や全国各地で10万人以上が参加しました。

コロナ禍の今年は、国際芸術祭「ヨコハマトリエンナーレ2020」の連携プログラムとして象の鼻パーク内の施設「象の鼻テラス」とオンラインでワークショップを実施。当社も協賛しました。日本や世界の子どもたちが描いた笑顔を果実袋にUVプリンターでプリントしました。

9月26日・27日のワークショップで完成したひかりの実を象の鼻パークに展示(撮影:加藤甫)

9月26日・27日のワークショップで完成したひかりの実を象の鼻パークに展示(撮影:加藤甫)

今回はこちらのみなさんにリモートでお話を伺いました。

左から髙橋匡太事務所の村上美都さん、髙橋匡太さん、川口怜子さん

髙橋匡太さん(写真中央)
日本を代表する光のアーティストです。主な作品に東京駅100周年記念ライトアップや京都市京セラ美術館の照明計画・演出など。ひかりの実をはじめ参加型のアートプロジェクトも多く手がけています。

髙橋匡太事務所 村上美都さん(写真左)、川口怜子さん(写真右)

株式会社ワコールアートセンター 守屋慎一郎さん
象の鼻テラスや表参道の複合文化施設「スパイラル」のチーフプランナー

象の鼻テラス(撮影:市川勝弘)

象の鼻テラス(撮影:市川勝弘)

Roland DG:「ひかりの実」はどのような作品ですか。

髙橋さん:僕が果実袋に描いた丸の中に子どもたちが自分や大好きな人の笑顔を描き、小さなLED電球を入れて木につけます。震災で節電が課題になったとき、小さな電池式のLEDでも果実袋に入れると大きく光ると思いつきました。被災地の陸前高田と横浜の子どもたちの笑顔を交換するなど活動は全国に広がっています。

守屋さん:髙橋さんと一緒に10年活動を続けています。小さな灯りが大きな風景になり、近づくと笑顔が見える。みんなが震災で落ち込んでいた時期だからこそ、作った人の想いやあたたかさが多くの人の胸に響いたのではと思います。

コロナ禍の作品製作にUVプリンターを活用

ひかりの実(撮影:村上美都)

ひかりの実(撮影:村上美都)

毎年横浜で展示されているそうですが、今年は状況が大きく変わりました。

髙橋さん:ひかりの実は参加者と一緒に作る作品です。これまで小学校や児童館などで子どもたちと一緒に作ってきました。
しかし、春先から世界的な新型コロナの流行で集まれない状況に。毎年楽しみにしてくださる方も多く、どう継続するか悩みました。

そこで今年はオンラインを併用して開催することに。専用のウェブサイトで世界中から笑顔の絵を募集しました。また、象の鼻テラスの少人数制のワークショップで、香港の子どもたちとZOOMをつないで同時に笑顔を描きました。

ワークショップは1家族ずつ開催。思い思いの笑顔ができました(撮影:村上美都)

ワークショップは1家族ずつ開催。思い思いの笑顔ができました(撮影:村上美都)

UVプリンターを採用いただいたきっかけは?

髙橋さん:作品を集まって作るのも、海外へ送るのも難しい状況でしたが、オンラインだけで完結したくないと考えていました。そこで果実袋にデジタルで印刷できないか周囲に相談したところ、色々なものに印刷できるUVプリンターがあると知りました。京都のFabCafeでローランド ディー.ジー.のUVプリンターを実際に試して、これならいけると思いました。

UVプリンター「LEF-12i」で果実袋にプリント(撮影:村上美都)

UVプリンター「LEF-12i」で果実袋にプリント(撮影:村上美都)

UVプリンターを使用した感想を教えてください。

村上さん:線の太さや色を変えてテストしたところ、印刷も速く、発色良くプリントできました。果実袋に直接クレヨンやマーカーで描いたような質感も出せました。

参加者からの反響はありましたか。

髙橋さん:飾っていると印刷したものに見えないようで、自然に「顔が描いてあるね」と言ってもらえました。 ワークショップの参加者や会場に来た方もこういうプリンターが実際に動くのを初めて見たようで、すごく興味を持ってくれました。子どもたちもかぶりつきで見ていましたね。だんだん絵ができていくのがとても新鮮だったのではと思います。

ワークショップ(撮影:加藤甫)

ワークショップ(撮影:加藤甫)

初めてのオンラインでの開催はいかがでしたか。

髙橋さん:これまでは日本国内で実施してきましたが、今回、日本と香港の子どもたちとリモートで一緒に作品を作れたことは大きな収穫になりました。

ワークショップの参加者とZOOMで記念撮影

これからのアートの可能性

コロナ後のアートについてどう考えていますか。

守屋さん:社会が不安定なときこそ、アートにできることがあると信じています。私たちは今、人と直接会えないなど、経験したことのない生活の変化に直面しています。震災後の節電や省エネをテーマに生まれたひかりの実が、大きく変化する社会で人との距離をつなぐきっかけになればと思います。

アートの分野でのデジタル技術の活用についてどう思いますか。

守屋さん:新しい技術をいかに楽しく使うかいつも考えています。今回の髙橋さんとUVプリンターのように、アーティストの創造性と技術が出会うことで新しい可能性が生まれると思います。

髙橋さん:UVプリンターは一点ものや質感にこだわった表現に向いていると感じました。今回は海外の子どもたちの笑顔をデジタルで印刷して展示しましたが、いつか日本の子どもたちの作品を海外の風景の中に展示してみたいですね。

これからの世の中はオンラインがスタンダードになるはずです。だからこそ、実際のものにアウトプットして、触れ、所有することがより大切になるのではないでしょうか。色々なものにアウトプットできることにUVプリンターの可能性を感じます。

ありがとうございました。

みんなが距離を越えてつながるアート作品に当社製品を通じて協力でき、うれしく思います。